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LIFE

ものづくりの現場から

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金物に命を吹き込む場所。 これからの金物の「価値」を作り上げるめっきファクトリー
私たちの生活において、ドアを開けない日がないように、ドアノブに触れない日もありません。 毎日触れるものだからこそ、デザインや仕上げにこだわるだけで、見るたび、使うたびにうれしい気持ちになれるもの。 カワジュンの建築金物には、使い手の暮らしに溶け込むようなこだわりのめっきが使われています。 今回は、カワジュンのものづくりを支えるファクトリーを訪ね、めっきという技術に込められた想いに迫ります。
みなさんは「めっき」と聞いて、どんなものを想像しますか。 カワジュンのドアノブを手にすると、手になじむ不思議な感覚に気づきます。 それは金属でありながらさまざまな色や光沢感、模様があり、ほのかに感じる温かみと心地よさ。想像と異なる質感です。 訪れたのは東京の下町、葛飾区四ツ木。この地域には、高い技術を持った町工場が集まっており、精密な金属加工など、オンリーワンのものづくりを手がける工場が数多くあります。 その一角に建つ工房が50年の経験と歴史を有するめっき工場。カワジュンのドアノブや取っ手など、めっき製品のほとんどがこのファクトリーで作られています。 カワジュンインダストリーの前身は、結婚式の贈答品などに用いられていた「置き時計」の装飾めっき加工を行うパイオニアファクトリーでした。
時代の変化もあり、めっきをほどこした置き時計はしだいに一般家庭での需要が減少。 そんななか、めっき加工の高い技術や精巧さを活かして建築金物に活用しようと考えたのが、カワジュンインダストリー誕生のきっかけでした。代表取締役を務める藤井淳氏に話を伺いしました。
Q. めっきの魅力はどういったところにありますか?
「『めっき』というと、昔から“めっきが剥がれる”という言葉が使われ、塗装のように剥がれやすいと思われがちですが、決してそんなことはありません。ドアノブなどの金物は、まずその形をデザインして、型を作るところから始まります。その型に溶かした金属材料を流し込んで、製品の祖形(鋳物)を作ります。 この鋳物に命を吹き込むのがめっきです。めっき加工は、電気分解という自然の原理を利用し、溶液に溶かした金や銀、プラチナなどの貴金属を金属の表面に完全に付着させるため、通常の利用でめっきが剥がれたり変色したりすることはまずありません」
腐食した自転車の鍵をめっき加工してもらった。 この段階では汚れが目立って輝きがない状態。
鍵を硫酸に浸すと、界面活性の作用が働き 金属に付着した汚れを落とす。
電解質の溶液の中に鍵を入れ、電極を通すと… うっすらとめっきが付着。
十分に乾かして、金めっき加工した鍵が完成。
ドアノブひとつを取り上げても、カワジュンにはゴールド・シルバー・ブロンズ・ブラックなど、様々な色のドアノブがあることに気づきます。実は、この色もめっき加工によって表現されているそうです。 「めっき加工は塗装よりも膜厚が薄いという特徴があるため、金属の質感を損なうことなく、味わいのある色味を表現できるのが魅力です。 例えば、ひと口に「ブラック」と言っても、光沢感のあるパールブラック、マットな質感のダークアンバーなど、めっきで表現できる「ブラック」は無数にあります。 薬液と貴金属のバランスで、金属が織りなす色と光沢感をコントロールする。私たちが考えるめっきとは『金属で表現するアート』と言っても過言ではありません。」
ダイカスト製の金物。 この表面を研磨し、洗浄した後、めっき加工が施される。
ドアノブの色パターン。金から黒まで、複雑な色合いもめっきで表現。
Q. めっきの工程でカワジュンインダストリーが、こだわっていることはありますか?
この日にめっき加工を施していたのは、カワジュンのドアノブや取っ手たち。職人たちは工程を終えるたびに目で確認し、黙々と製品と向き合うといった様子です。 機械のモーター音とは対照的に張りつめた空気の中で、めっきの仕上がり具合をチェックする職人の眼差しは真剣そのもの。 「めっきの工程は、先ほどの祖型の汚れを薬液で完全に洗うところから始まります。見えない汚れが表面に付着していると、金属のコーティングが均一にならずムラが出てしまうからです。めっき液の中で均一に金属を付着させたあとは、一つひとつを必ず指先や手のひらで状態を確かめていきます」
多くの同業他社が機械の自動化を取り入れている中、カワジュンインダストリーでは、めっき工程の大部分を手作業で行っています。手作業へのこだわりはどういったところにあるのでしょう。 「カワジュンインダストリーは、多品種・小ロットに対応しためっき工場です。 つまり、カワジュンの様々なデザインの製品を、必要な時に必要な量だけ製造しています。通常ひとつの工場で複数の製品を作る場合、ひとつずつ製造しているとミスが発生しやすく、製造スピードも落ちてしまいます。 そのため、機械に工程のすべてを任せ、一定量をまとめて生産する方が1ロットあたりの生産数も上がり効率化を図れます。ですが、カワジュンインダストリーは職人がもつノウハウや経験、感性を大切にし、職人の育成にも取り組んでいます。 もちろん、人が手作業でやっているゆえに、めっきの仕上がりにムラが出ることもあります。 ですが、お客様が毎日見て使う金物だからこそ、職人の目から見てダメなものはダメ。そこは絶対に妥協しません。 最終的に頼れるものは、職人の手であり、目です。」
できあがった製品を検品する品質管理担当の竹澤一郎氏。 「私たちの製品が使い手の迷惑になってはならない。だからこそ、厳しい目線で仕上がりを確認します」 素人の目ではわからない、キズを長年培った経験で目視確認。 現場に行った取材担当も目視ではわからないほどのものがキズ扱いとなっていました。その一品ずつの品質管理体制に脱帽。
写真左:サテンニッケルなどのヘアライン仕上げは、めっき加工の後に「サテーナ仕上げ」と呼ばれる研磨工程を行う。 写真右:向かって左側に見えるのがサテーナ仕上げを経たドアノブ。
「MONART(モナート)」には一点ずつ違う風合いの凹凸が施されている。まさに金物のアート。
工房には若い職人が多く見られる。 ものづくりの担い手の育成にも力を入れるカワジュンインダストリー。
Q. カワジュンインダストリーの「ものづくり」が目指すものについて教えてください。
かつて、日本はものづくり大国と呼ばれ、その精巧な技術は世界の人々をうならせる製品を生み出してきました。 しかし、製造業の多くは、事業所数、従業者数ともに減少傾向にあるようです。日本の「ものづくり」はどこに向かおうとしているのでしょう。 「私が職人たちに伝えているのは『付加価値あるものづくりをしよう』ということ。おそらく、業界を見回しても、これほど多品種なめっき加工ができる工場を持っている金物メーカーはありません。 『カワジュンインダストリーでしかできないことを追求する』ことが、ものづくりの生きる道だと思います。 カワジュンの営業やデザイナーとの打ち合わせの場で、『そんなめっきは誰も見たことがないから売れないかもしれない』と言われることがありますが、まだ市場にないものを作ることができれば、それがめっきの見方を根本から変えることができ、新しい“価値”を創造できるのです。 カワジュンインダストリーは、表面処理が難しいとされてきたマグネシウム合金へのめっきを可能にした、技術力の高いめっき工場。マグネシウム合金は実用金属として最も軽く、強度・剛性に優れ、自動車、ノートパソコン、携帯電話、カメラの筐体などでも用途が広がっています。 今後も、めっきが難しいとされる素材へのめっき技術を追求しながら、まだ見ぬ色調を追い求め、新しい色の開発にも取り組んでいきます。 カワジュンインダストリーにしかできないものづくりへの挑戦はまだ始まったばかり。私たちが作り上げためっきが、みなさんのお手元に届くのを楽しみにお待ちください」
カワジュンインダストリーの藤井淳氏は、カワジュンのものづくりを支える生命線。 現在、新しいファクトリーの立ち上げに大忙し。
静かに、しかし熱くめっきへのこだわりを語る藤井氏。 カワジュンの製品に触れた時に感じたあの心地よさは、職人たちのものづくりにかける想いや工房の空気感が、めっきに宿っていたからだったのかもしれません。